PSI→MPa、華氏→摂氏、HP→kW……海外メーカー仕様書の単位を、変換サイトとExcelを往復していませんか?
この作業の本当の怖さは「時短できない」ことではなく、1回の転記ミスが誤発注・不適合・手戻り(=お金と信用の損失)につながる点です。
そこで本記事では、プラント/輸入建材の現場で使えるように、“計算ロジックが見える(検算できる)Excel一括変換”を最短で作る設計図をまとめます。AI(ChatGPT)を使う場合も、ブラックボックス化させずに運用できる形に落とし込みます。

「AIにコードを書かせる前に、まず“日本語の設計図(仕様)を固める”」という前提を押さえたい方は、こちらも先に読むと理解が速いです。

結論:Excel自動化で絶対に外せない3つ

- 換算係数は「社内ルール」として固定し、根拠と丸め(小数点桁)を明文化する
- 検算(逆算)列を必ず持たせ、ズレたら赤く出す
- HPの種類(mechanical / metric など)と、psig/psia(基準圧)を最初に潰す
海外仕様書の単位変換をエクセルで自動化すべき理由
単位変換を自動化する目的は「作業を速くする」だけではありません。ヒューマンエラーを“仕組みで減らす”ことが最大の価値です。
変換サイトのコピペに潜む3つの事故パターン
- 小数点・桁ズレ: 10.1 を 101 と見誤る/貼る列を1行ズラす
- 丸めの不一致: サイトや担当者で小数点処理が違い、社内データがブレる
- 「単位の取り違え」: PSIのつもりが kgf/cm² を混ぜる、HPの種類を勘違いする

【現場でよくある失敗例(匿名化)】
仕様書から圧力を拾う段階で、PSIとkgf/cm²が混在していたのに気づかず、変換サイトで1件ずつ手入力してしまう。
こういう時に起こるのは「計算ミス」ではなく、“入力の前提が崩れている”事故です。だからこそ、Excel側に単位選択・検算・異常検知を組み込む価値があります。
AIに丸投げしたツールが危ない理由(ブラックボックス化)
ChatGPTに「単位変換マクロを作って」と言うと、見た目はそれっぽいコードが出ます。
でも現場で怖いのは、係数・丸め・HPの種類など、前提が1つズレたまま運用が始まることです。コードを読む必要はありません。経営者(責任者)が握るべきなのは、“日本語の仕様(設計図)”です。
ブラックボックス化を避ける「設計図の固め方(ロードマップ)」は、別記事で詳しくまとめています。

プラント・建材現場で必須となる単位変換の基本仕様(先に決める)

自動化の前に、まずは社内で「換算の前提」を固定します。ここが曖昧だと、誰が作っても誰が使ってもブレます。
注意:HPは種類がある(ここが一番事故る)
仕様書の「HP」は、文脈によって意味が違います。たとえば代表的に次があります。
- mechanical (imperial) horsepower: 主に米国文脈で見かける
- metric horsepower: 欧州・自動車周辺で見かける(表記がPSの場合も)
対策はシンプルで、仕様書に「HPの種類」または対象市場(US/EU等)を確認し、社内ルールとして固定します。迷うなら、発行元の定義・注記を確認してください。
注意:psig / psia は「単位変換」ではなく「基準圧」の違い
psig(ゲージ圧)とpsia(絶対圧)の混同は、係数で直せません。基準(大気圧を足す/引く)話なので、仕様書がどちらか必ず確認してください。
主要単位の換算(例:社内ルールとして固定する)
以下は代表例です。最終的には自社の根拠資料に合わせて係数・丸めを確定してください。
| 変換元 | 変換先(JIS/SI側) | 換算式(例) | 社内で決める項目 |
|---|---|---|---|
| PSI | Pa / MPa | Pa = PSI × 6894.757293… MPa = Pa ÷ 1,000,000 |
MPa表示にするか/小数点桁 |
| ℉(華氏) | ℃(摂氏) | ℃ = (℉ − 32) ÷ 1.8 | 表示桁(例:小数第1位) |
| HP | kW | ※HPの種類で係数が変わる(下のExcel実装で分岐) | mechanical/metric等の採用 |
「係数をテーブル化して固定する」「データの置き場所を先に決める」発想を補強したい方は、こちらも参考になります。

【ここが本体】Excelで一括変換する“死なない”列設計(VBAなし)

まずはVBAなしで「壊れにくい型」を作ります。これだけで現場運用は回ります。
シート構成
- 変換:実データを貼る場所(入力・換算・検算)
- 係数:換算ルールを置く場所(社内ルールの固定)
- 変更履歴:いつ誰が何を変えたか(運用の生命線)
「入力・データ・出力を分ける」だけで壊れ方が局所化します。Excel自作が崩れるパターンは別記事で実録ベースでまとめています。

(1)「係数」シート:換算ルールをテーブル化
「係数」シートに次の列で表を作ります(Excelのテーブル機能推奨)。
- A列:Unit(例:PSI, F, HP_MECH, HP_METRIC)
- B列:To(例:Pa, C, kW)
- C列:Mul(掛け算係数。必要なものだけ)
- D列:Add(足し算係数。華氏などで使用)
- E列:Div(割り算係数。華氏などで使用)
- F列:Round(表示・運用上の丸め桁。例:MPaは2桁など)
テーブル機能の「自動拡張」や「列名参照(見通しの良さ)」を押さえたい場合は、こちらが近いです(テーブルの考え方だけ拾えばOKです)。

例(係数テーブル)
| Unit | To | Mul | Add | Div | Round |
|---|---|---|---|---|---|
| PSI | Pa | 6894.7572931783 | 0 | 1 | 0 |
| F | C | 1 | -32 | 1.8 | 1 |
| HP_MECH | kW | 0.7456998716 | 0 | 1 | 3 |
| HP_METRIC | kW | 0.73549875 | 0 | 1 | 3 |
(2)「変換」シート:列テンプレ(これを固定化)
「変換」シートは次の列で固定します。
- A列:入力値(例:10.1)
- B列:入力単位(ドロップダウン:PSI / F / HP_MECH / HP_METRIC)
- C列:換算結果
- D列:検算(逆算)
- E列:差分(ABS)
- F列:判定(OK/NG)
B列のドロップダウン(リスト入力)で「選択肢が増える」「空白が混ざって使いにくい」問題を潰したい場合は、この設定がそのまま使えます。

(3)入力事故を潰す:A列の正規化
A列に「100 PSI」など文字が混ざるのを想定するなら、別列に「数値だけ」を抜く仕組みを入れます(例:G列を作り、そこで数値化)。
例:=IFERROR(VALUE(TRIM(SUBSTITUTE(A2," ",""))), "")
「文字列の中から必要な部分だけ抜く」系の処理(LEFT/MIDなど)の考え方は、こちらが近いです。

(4)C列:換算式(テーブル参照で固定)
以下は一例です(係数テーブル名を tblCoef とします)。
C2(換算)
=LET(x,$A2,u,$B2,
mul, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Mul]),
add, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Add]),
div, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Div]),
r, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Round]),
ROUND( (x+add)*mul/div , r )
)
※LETやXLOOKUPが使えないExcelの場合は、VLOOKUPやINDEX/MATCHに置き換えてください。
(5)D列:検算(逆算)を必ず入れる
“死なない”ためにここが本丸です。逆算して元値に戻るかを確認します。
D2(逆算)(PSIやHPのような乗除系は戻せます。華氏は別式にする)
=LET(y,$C2,u,$B2,
mul, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Mul]),
add, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Add]),
div, XLOOKUP(u, tblCoef[Unit], tblCoef[Div]),
IF(u="F",
(y*1.8)+32,
(y*div/mul)-add
)
)
E2(差分)
=IF(OR($A2="",$C2=""),"",ABS($A2-$D2))
F2(判定)
=IF($E2="","",IF($E2<=0.0001,"OK","NG"))
※許容差(0.0001など)は、単位と丸め方針に合わせて社内で決めてください。
(6)条件付き書式:NGを赤くする
F列がNGなら行全体を色付け。これだけで“見落とし”が激減します。
検算セルの置き方・許容差の考え方・条件付き書式で「壊れたら即わかる」を作る型は、角度の単位混在(度/ラジアン)でも同じ発想で使えます。

ChatGPTで自社専用の単位変換ツールを作成する手順(ブラックボックス化させない)

AIを迷わせない「日本語の設計図」テンプレ
【プロンプト例】
海外仕様書の単位をJIS/SI側に変換するExcelを作ります。先に仕様(設計図)を確定したいので、以下の前提に抜け漏れがないか指摘してください。
1) 変換対象:PSI→Pa(必要に応じてMPa表示)、℉→℃、HP→kW。
2) HPは種類があるため、入力単位は「HP_MECH」「HP_METRIC」に分ける。
3) 係数・丸め桁は「係数」シートに固定し、換算式はそのテーブル参照にする。
4) 変換後に必ず逆算(検算)し、許容差を超えたらNGにする。
5) 入力データには空欄、全角、見えない空白、単位付き文字列が混ざる可能性があるので、正規化の考え方も入れる。
追加で必要な注意点(psig/psia、表示桁、単位表記揺れ等)があれば教えてください。
出てきたコード/式を“必ず”検証する(テストケース)
- PSI:0 / 1 / 14.7 / 100
- 華氏:32 / 212 / -40
- HP:1 / 10 / 100(mechanicalとmetricで差が出ることを確認)
- 入力異常:空欄、”100 PSI”、全角スペース混入
ツールを属人化させないための「システム運用論」

最低限のドキュメント(これだけで保守できる)
- 係数の根拠(社内で採用した出典・ルール)
- 丸め方針(表示桁・許容差)
- 変更履歴(いつ、誰が、何を、なぜ変えたか)
- 使い方(誰が、いつ、どのデータを貼って、何を見てOKにするか)
AIで作ったものほど、“仕様が資産”です。コードより日本語の設計図を残す。これが「死なない」条件です。
まとめ

単位変換の自動化は、単なる効率化ではなく、誤発注・不適合のリスクを下げるための仕組み化です。
Excelで「係数固定 → 換算 → 検算 → 異常検知」まで入れておけば、AIを使う場合でもブラックボックス化しません。
もし次にやるなら、あなたの業界で頻出の単位(kgf/cm²、bar、inH2O、BTU、GPMなど)を追加し、係数テーブルを“社内標準”として育てていくのが最短です。

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