「AIを使えば、自分専用のシステムが作れるらしい」
「DXだ、効率化だと世間は騒がしい。うちもやらないといけないのは分かっている……」

こんにちは、メリ爺です。最近、多くの経営者の方からこうした声を耳にします。ですが、その後に続くのは決まってこの言葉です。「……で、結局、何から手をつければいいの?」
ネットを見れば『ChatGPTにプロンプトを入れれば一瞬!』なんて景気のいい見出しが並んでいますが、肝心のプロンプトに「何を」書けばいいのかが分からない。とりあえず触ってみたものの、AIから「具体的な指示をください」と返されて、そっとブラウザを閉じてしまう……。そんな経験、ありませんか?
実は、AI開発における最大の壁は、コーディング(プログラミング)ではありません。「自分のやりたい業務を、AIに伝わる形に整理すること」、たったこれだけなんです。ここを飛ばして適当な指示で作り始めると、後から手直しできない、使い物にならない「デジタル・スラム」を生み出すことになってしまいます。
今回のテーマは、そんな「何から始めればいいかさっぱり分からない」という状態を卒業し、10年後も使い続けられる「死なないシステム」の設計図を描く方法です。必要なのはITの専門知識ではなく、あなたが普段、部下に指示を出す時に使っている「日本語」だけ。さあ、AIという最強の右腕に「正しい道」を教えるための極意を学びましょう。
要件定義は「旗」、機能設計は「ゴールへの道」

前回の記事では、AI開発において「何のために作るのか」というゴール、つまり要件定義という名の旗を立てることの重要性をお伝えしました。広大なビジネスの海で、迷子にならないための目印ですね。
要件定義は、システムを作る目的であり、経営者としての意思表示です。ここが曖昧だと、AIは迷走し、あなたの望まないゴミ(デジタル・スラム)を生成してしまいます。まだの方は、「旗の立て方」からチェックしてみてください。
さて、旗は立ちました。次にあなたがすべきは、「その旗(ゴール)に向かって、どんなルートで進むのか?」を決めることです。
それが、今回お話しする「機能設計」です。旗を立てるのが「経営の判断」なら、機能設計は「実務の整理」。ここさえ決まれば、AIは驚くほどスムーズに動き出し、あなたの代わりにコードを書き始めます。
機能設計とは何か?ビジネスの動きを「役割」に分ける

機能設計と聞くと難しそうですが、要は「システムにどんな役割を持たせるか」を書き出す作業です。あなたが現場のスタッフに、「朝来たら最初にこれをやって、次にこれを確認して……」と手順を教えるのと、全く同じです。
例えば、「見積もりから入金確認までを一元管理したい」という旗(要件定義)を立てたとします。これを実現するために必要な、具体的なパーツ(機能)をバラバラにしてみましょう。
- 見積作成:商品を選んで個数を入れたら、勝手に金額と税金を計算してくれる場所。
- 注文請書発行:見積のデータをそのままコピーして、請書をPDFで作ってくれる場所。
- 請求管理:売上データを集計して、月末に一括で請求書を出してくれる場所。
- 入金確認:銀行振込の結果を見て、「この人は払い済み」とチェックを入れる場所。
このように、「見積作成では商品コードを打てば名前が出るようにしよう」といった具体的な動きを言葉にしていきます。これが、AIへの最高の指示書になります。わからない範囲まで無理に書く必要はありません。あなたの頭の中にある「理想の業務フロー」を、箇条書きにするだけでいいのです。
メリ爺の視点:
AI開発の凄いところは、後から「やっぱりあっちの道の方が近かった」と作り直すのが非常に簡単な点です。最初から完璧な設計図なんていりません。70点くらいの「ざっくり」とした地図を渡せば、あとはAIが「ここはどうしますか?」と聞きながら形にしてくれます。
ただし道の変更を簡単に実現するには要件定義に加えて「テーブル設計」の知識が不可欠になります。

ワンポイントうんちく:
機能設計で欲張りたくなる時に思い出してほしい合言葉があります。「YAGNI(You Aren’t Gonna Need It:それ、今はいらない)」です。
ソフト開発の現場では、「いつか必要になるかも」で機能を積むほど、複雑になって壊れやすくなるのが定番の落とし穴。AI開発は後から足すのが得意です。今やるべきは「必要最小限の道」を決めること。将来の道は、その時に引き直せばいいんです。
なぜ「外部設計」と呼ばれるのか?人間とAIの接点を作る

機能設計は、ITの世界では「外部設計」とも呼ばれます。なぜ「外部」なのか。それは、「システムと、その外側にいる人間との境界線」を設計する工程だからです。
中身の複雑な処理やプログラミングの仕組み(内部)は、すべてAIに任せてしまいましょう。経営者であるあなたが責任を持つべきは、人間が直接触れる「外側」の使い勝手、つまりインターフェースです。
具体的には、次の3つを意識するだけで設計図らしくなります。
- 入力:人間が何を打ち込むのか?(顧客名、金額、日付など)
- 画面:どこに何が表示されて、どのボタンを押せばいいか?
- 出力:最後に何が出てきてほしいか?(PDFの帳票、集計されたグラフなど)
「どうプログラミングするか」に悩む必要はありません。あなたがやるべきは、「人間が何をして、システムがどう応え、どんな成果を出すのか」という境界線を網羅すること。これこそが、システムが迷走して「腐る」のを防ぐ、唯一の方法なのです。
プロの設計を「いいとこ取り」するAI内製開発術

一般的なIT業界では、機能設計のために何十ページもの分厚い仕様書を作ります。画面の遷移図や、データの型、ミリ単位の帳票レイアウト……。これを未経験者が真似しようとすれば、一行もコードを書く前に心が折れてしまうでしょう。
でも、安心してください。AIを武器にする我々は、そんな苦労はしなくていい。「人間が操作する画面イメージと、入出力されるデータの内容」が日本語で筋道立てて書かれていれば、それで合格です。
今あなたが使っているExcelの項目を書き出したり、手書きの伝票を写真に撮って「これと同じ項目が必要だ」とAIに伝える。それだけで、立派な設計図になります。難しく考える必要はありません。あなたの「業務の知識」こそが、AIにとって最高の栄養源なのです。
うんちく:機能設計が急にラクになる「CRUD(4分類)」の魔法

機能設計が苦しい理由は、頭の中で機能がごちゃ混ぜになるからです。そこで使える、プロ現場の定番の整理術があります。CRUD(クラッド)という4分類です。
CRUDは、業務システムの機能がだいたい次の4つに落ちる、という考え方です。
- C(Create):登録する(例:見積を作る、顧客を登録する)
- R(Read):見る・検索する(例:過去の見積を探す、入金状況を一覧で見る)
- U(Update):更新する(例:金額修正、ステータスを「入金済」にする)
- D(Delete):削除する(例:間違えたデータを消す、取り消し処理をする)
これを知っているだけで、機能設計が一気に「漏れにくく」なります。たとえば「入金確認」という機能も、分解するとこうなります。
- R:請求一覧を表示する(未入金だけ絞り込みもしたい)
- U:入金ステータスを更新する(入金日、入金額、メモも)
- R:入金済みを集計して月次レポートを出す
そして、ここが重要です。D(削除)だけは、経営視点で「ルール」を決めておくと、死なないシステムに近づきます。
- 削除できるのは誰か?(社長だけ?管理者だけ?)
- 本当に消すのか?(論理削除:消したフリにして履歴は残すのか?)
- 消した理由を残すのか?(監査・トラブル時の保険)
要するに、CRUDで整理すると「AIに頼むべきコードの話」ではなく、「あなたが決めるべき業務ルール」に自然と意識が戻ってきます。これが、経営者の内製開発にとって強いんです。
AI開発なら、走りながら「道」を直していい

従来のシステム開発は、いわば「石の建築」でした。一度建ててしまったら、壁を壊して間取りを変えるのは至難の業。だから、必死になって完璧な設計図を求めたのです。
しかし、AI開発は「粘土細工」です。
要件定義という土台(旗)さえしっかりしていれば、その上の機能(道)は、後からいくらでもコネコネと変えられます。むしろ、「ざっくり作らせてみて、実際に触ってみて、足りない機能を足していく」というスタイルこそが、AI時代の正解です。
「このボタン、やっぱりこっちの方が使いやすいな」「この集計も自動でやってほしいな」と思いついたら、その都度、言葉でAIに伝えればいい。旗(目的)さえ見失わなければ、道(機能)は何度引き直しても、それは失敗ではなく「理想へのブラッシュアップ」になります。
まとめ:設計図はAIという最強の部下を動かす「最高の指示書」

機能設計は、専門家に外注するものではありません。むしろ、現場の無駄を一番よく分かっている「あなた」にしか書けない「業務の地図」です。
要件定義というゴールを、機能設計という具体的な道に落とし込む。この「日本語による設計図」を手にした時、AIはあなたの思い通りに動く最強の右腕へと変わります。
さあ、難しく考えず、いったん真っ白な紙(あるいはメモ帳)を開いてみてください。AIに何をさせれば、あなたの仕事はもっと楽になりますか?ワクワクしながら書き出すその一歩が、属人化に怯えない、腐らない、「死なないシステム」へと確実に繋がっています。
次回のステップ:
機能が固まったら、次はシステムが覚えるべき「記憶」、つまりデータの持ち方についてお話しします。ここを理解すれば、あなたのシステムは一気にプロ級の安定感を持ち始めます。お楽しみに!


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